蓮は、これまで拾い集めてきた断片を机の上に並べ直していた。日付、通話の空白、配信後にだけ増える接触、スタッフ経由の回りくどい圧力。点にしか見えなかった違和感は、線になり、ようやく輪郭を持った。相手の狙いは、ミオを単に遠ざけることではない。彼女の仕事の導線そのものを握り、誰と会い、どこへ移動し、何を断るかまで、静かに選ばせることだった。表向きは支援者、裏では距離を奪う存在。その目的が見えた瞬間、蓮の中で迷いは消えた。 「相手は、君を困らせたいんじゃない。君の選択肢を減らしたいんだ」 ミオは黙ったまま、指先を膝の上で重ねていた。やがて小さく息を吐き、「たぶん、私にも隠していたことがある」と言った。蓮が目を上げると、彼女は苦笑を浮かべた。 「昔、あの人に仕事を助けてもらったことがあるの。最初は恩人みたいに見えた。でも、会うたびに予定を聞かれて、交友関係まで口を出されるようになって。怖くなって、少しずつ距離を取ったら、今度は周りを使って逃げ道を塞がれた」 蓮はうなずいた。断片が一つ、また一つとつながる。スタッフ経由の連絡も、イベント会社の人脈も、彼女の動きを先回りするための網だったのだ。ミオはさらに、蓮の知らなかった名前を挙げた。昔からの友人で、表向きはただの知人に見える人物。だが、その中に相手へ情報を流している可能性がある。蓮はそれを聞き、相手の本当の目的が恋愛感情ではなく、支配欲と囲い込みだと確信した。 その頃、相葉は別室で裏取りを進めていた。通信記録の照合、監視映像の時刻合わせ、スポンサー筋の金の流れ。捜査資料には、同じ人物の名が何度も出てくる。相葉はそれを見つめ、静かに言った。 「追跡では足りない。証拠で縛る」 彼は今夜中に、相手が動くと読める場所へ張り込みをかける準備を始めた。蓮が組んだ偽の移動予定、ミオがあえて公開する短い告知、そして相葉が押さえた裏側の導線。それらが一つに重なれば、相手は自分で罠の中心へ歩いてくる。 ミオは深く頭を下げた。「私、もっと早く話すべきだった」 「今で十分だ」蓮は即答した。「隠していた時間も、相手に使わせなければ意味がある」 その言葉に、ミオの目が少しだけ揺れた。だが次の瞬間には、覚悟を決めた顔に戻る。彼女は初めて、守られるだけでなく、こちらに情報を渡す側へ回った。過去の小さな違和感がひとつの目的へ収束し、秘密だった交友関係さえも、今は真相へ近づく材料になる。 窓の外では、夕方の光が傾いていた。追う側から、立証する側へ。流れはもう変わっている。蓮は端末を閉じ、相葉の待つ部屋へ向かった。次に動くのは相手だ。だが、その一手は、すでにこちらの手の内にある。
恋人役から始まる共闘
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