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恋人役から始まる共闘

小説ID: cmo5wuqbr001301s21k0n7lce

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四度目に会ったのは、夕方の雑踏がようやくほどけ始める駅前だった。ミオが先に着いていて、柱の影で人目を避けるように立っている。蓮が近づくと、彼女は自然な仕草で腕を絡める寸前で止め、恋人同士らしい距離を保った。 その横に、若い男が一歩遅れて現れた。端正な顔立ちだが、目つきは仕事の癖を隠せていない。警官の制服は着ていないのに、蓮にはすぐ分かった。 「あなたが蓮さんですね」 低く整えた声だった。男は名刺を差し出し、相葉と名乗った。若手の警官で、ミオに関する相談を追っているという。蓮は名刺を受け取り、すぐに内容を頭へ通した。相談、追っている、という言い方が曖昧だ。けれど、彼の視線は曖昧ではなく、蓮の立ち位置を確かめるように静かに刺さってくる。 「恋人役だと聞いていますが、本当にそうですか」 「表向きは、です」 「では、どこまで本当なんです」 相葉の問いは単刀直入だった。ミオがわずかに息を詰める。蓮は彼女の手首に触れない位置で立ち、事前に整理していた段取りを崩さずに返した。 「会う頻度、移動の経路、連絡の取り方は共有しています。必要な範囲だけです。感情の話は、こちらから決めつけていません」 「準備が細かいですね」 「細かくしないと、曖昧さに見えるからです」 相葉は少しだけ眉を動かした。疑いが減ったわけではない。ただ、相手を軽く見る目ではなくなった。ミオはその間も黙っていたが、蓮の説明が要領を得ていると気づいたらしく、肩のこわばりがわずかに緩んだ。 相葉は、彼女に直接も聞いた。連絡を受けた相手の名前、最後に会った日時、接触の方法。ミオは隠さず答える。蓮は、その答えに食い違いが出ないよう、必要な補足だけを差し込んだ。三人の間に、張り詰めた糸のような空気が流れたが、切れはしなかった。 「あなたが本当に協力するつもりなら、今後の動きは共有してください」 「もちろんです」 蓮が即答すると、相葉はほんの少しだけ目を細めた。警戒は残っている。だが、蓮の返答が感情でなく手順に基づいていると分かったのだろう。彼はミオの方へ視線を戻し、必要なことだけを淡々と確認していく。 やがて相葉は、持ってきた資料の写しを一枚、蓮にだけ見せた。そこには、ミオの周辺で不自然に繰り返される連絡の時刻と場所が並んでいた。蓮は一目で、偶然では片づかない並びだと理解した。 「今夜、試します。向こうが動くなら、こちらは先回りできる」 その言葉に、ミオが小さく息を呑む。蓮は迷わずうなずいた。警官を疑っていた相手が、いつの間にか最も頼れる情報源になっている。相葉もまた、蓮の準備と判断の速さを見て、完全には信用していない顔のまま、だが確かに協力者として扱い始めていた。 恋人のふりはまだ続く。けれど今は、ただ演じるためのものではない。三人はそれぞれの立場のまま、同じ方向を向き始めていた。