次に会ったのは、駅から少し外れた静かな喫茶店だった。蓮は入口で一度だけ店内を見渡し、席の配置、死角、出入り口の数を頭の中で並べた。慣れない場でも、癖のように情報が集まってくる。遅れて入ってきたミオは、いつもの配信で見せる明るい空気を少しだけ抑え、自然な笑顔を作った。 「今日は、どう振る舞えばいい?」 「会話の最初は軽く。呼び方は前より距離を詰めて、でも馴れ馴れしすぎないくらい。人前では、俺が少し先に歩く。君はその半歩後ろ」 「細かい」 「見られる仕事なら、細かいほど誤魔化しが効く」 ミオは小さく息を漏らし、それから真顔でメモを取り始めた。スマホの画面に、蓮の言った内容を要点だけ並べていく。思っていた以上に几帳面で、妙に真剣だ。その姿に、蓮は少しだけ意外さを覚えた。もっと感覚で乗り切るタイプかと思っていたが、彼女は自分の置かれた状況を曖昧にしたままにしないらしい。 「笑い方は?」 「無理に大きくしなくていい。君は声を少し落とした方が落ち着いて見える」 「じゃあ、蓮は?」 「俺は今のままでいい。たぶん、無理に作ると不自然になる」 そう答えると、ミオはくすりと笑った。作った笑顔ではなく、肩の力が抜けたような、短い本音の混じった笑みだった。蓮はその一瞬に、思わず視線を外した。彼女の声は、画面越しで聞くよりずっと近く、少しだけ温度を持って届く。 打ち合わせは、手をつなぐタイミングまで及んだ。人目が多い場所では、指を絡めず軽く触れるだけ。写真を撮られそうな時だけ、自然に寄る。会釈の角度、歩幅、注文の仕方。演技を整えるほど、かえって互いの癖が見えてくる。 ミオはグラスを持つとき、右手の親指を必ず一度だけ止める。蓮は質問を受けると、答える前に短く息を吸う。そんな小さな違いを、二人とも気づかないふりをした。 「ねえ、蓮」 「何」 「こういうの、普通はもっと気楽なのかな」 「普通かどうかは知らない。でも、楽でないなら、最初から崩れない形にしておくべきだ」 ミオは少し黙ってから、静かにうなずいた。テーブルの上で、指先が一瞬だけ触れる。すぐ離れたのに、その短さが妙に長く感じられた。蓮は平静を保とうとしながらも、彼女の真面目さが自分の予想よりずっと近くにあることを理解し始めていた。 その頃にはもう、演技のための会話は、ただの台本ではなくなっていた。
恋人役から始まる共闘
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