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恋人役から始まる共闘

小説ID: cmo5wuqbr001301s21k0n7lce

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三度目に会ったとき、ミオは少し疲れた顔をしていた。待ち合わせ場所は駅前の明るい通りだったが、彼女は人波の端を選ぶように歩いてきて、蓮の横に立つと、ようやく息をついた。 「昨日、また来たの」 「誰が」 「前に話した人。直接じゃないけど、スタッフ経由で連絡があって。会えないかって」 蓮はその一言を、軽く聞き流せなかった。単なる執着なら、方法はもう少し素朴だ。だが、あえて迂回してくるのは、相手が距離の取り方を知っている証拠でもある。彼は頭の中で、これまでの出来事を順に並べた。イベント後に現れるタイミング、返信の空白を狙うような連絡、配信の終了直後にだけ増える視線。偶然にしては揃いすぎている。 「その人、君の行動をかなり把握してる」 ミオの肩がわずかに強張った。「やっぱり、気のせいじゃないよね」 「気のせいなら、ここまで規則的にならない」 蓮はスマホを取り出し、日付と時間を整理し始めた。彼女が不安を口にした瞬間、その輪郭は曖昧な感情ではなく、確かなパターンに変わる。連絡の頻度、場所、相手の反応。断っても引かず、強引にもならず、しかし確実に周囲へ入り込もうとしている。 「今後は三つ決めよう」 「三つ?」 「一人で帰らない。連絡は返す前に俺に一度見せる。予定変更は、その場で共有する」 ミオは少しだけ驚いた顔をしたあと、すぐに真剣な表情に戻った。「そんなに必要?」 「必要だ。相手は君が曖昧に断る隙を探してる。隙がなければ、動きは鈍る」 彼女はゆっくりうなずいた。そこで初めて、蓮は自分がただの恋人役ではなく、実際の安全を組み立てる役目まで引き受けつつあると気づく。演技のための所作だったはずなのに、会うたびに実務になっていく。駅の改札を抜ける位置、エレベーターに乗る順番、暗い道を避ける帰路。どれも現実的で、どれも彼女を守るためのものだった。 「蓮は、こういうの慣れてるの?」 「仕事で仕組みを整えるのは慣れてる。人の気持ちは別だが、今は後回しでいい」 ミオは小さく笑った。その笑みには、もう見栄も作為も薄い。代わりに、頼ることを決めた人間の静けさがあった。 二人は並んで歩きながら、次の予定を確認した。会う場所は人目の多い店に限定すること。単独行動の前後には短く連絡を入れること。もし相手が接触してきたら、すぐ記録を残すこと。細かな約束が増えるほど、関係は恋人のふりから、危機を避けるための連携へと変わっていった。 蓮は横目でミオを見た。彼女はもう、不安を隠そうとしていない。隠さない代わりに、今できる準備を選んでいる。その姿は、配信で見る華やかさよりもずっと強く見えた。 そして彼は、相手が狙っているのは彼女の自由だけではないのかもしれないと、静かに考え始めていた。