地区大会の朝が近づくほど、工房の空気は張りつめていった。主人公は乾きかけの器を前に、最後の仕上げをしていた。その背後で、あのライバルが珍しく迷いを見せずに立っている。一直線に土を切り、迷いのない手つきで縁を整える姿は、いつも通り鋭いはずだった。だが今日は、その顔つきが少し違った。 主人公が思い切って声をかけると、相手は一瞬だけ手を止めた。お前の器、前よりまっすぐになったな。その言葉は褒めるというより、事実を確かめる響きだった。主人公は胸の奥がざわつくのを感じながら、自分も答えた。そっちこそ、なぜそんなに勝ちにこだわるのか、ずっと気になっていた。 ライバルはろくろの回転を止め、しばらく無言だった。やがて、焼き上がった試作品の欠片を手に取る。あれを見てからだ、と低く言った。昔、家の店で器を割った客がいた。悪意はなかった。でもその一枚で、店は客を失った。壊れない器を作れないなら、意味がないと思ったんだ。 主人公は息をのんだ。派手な形より、日常に耐える強さを選んでいたのだと分かる。勝ちたい気持ちの奥に、守りたいものがあった。その理由は、ただ強がっているだけではなかった。お前はどうなんだ、と返され、主人公は少し考えてから答えた。自分は、誰かの毎日に残る器を作りたい。けれど、それが大会で通用するのか、不安だった。 相手は小さく笑った。なら同じだ。俺は壊れないことを突き詰める。お前は残る形を探せばいい。方法は違っても、目指す先は近いかもしれない。 その言葉で、張り合っていた気持ちが少しだけ変わった。相手を倒す相手として見ていたはずなのに、いつの間にか、同じ高さの土台の上で競っているのだと感じる。先輩が二人のやり取りを見て、静かに頷いた。敵意を持ったままでは、器は浅くなる。けれど、認め合えば、圧は力になる。 主人公は自分の作品を見つめ直した。薄さと安定、そのあいだにある微かな揺れを、もう少しだけ残そう。勝つために形を削るのではない。譲れない部分を見極めて、最後まで磨くのだ。隣ではライバルもまた、釉薬の瓶を閉じた。互いに言葉は少ない。それでも、さっきまでの対立は消え、代わりに緊張感のある敬意が残っていた。 工房の窓の外で、朝の光が少しずつ差し込む。大会はもうすぐだ。主人公は土に手を置き、自分の鼓動が器の形と重なるのを感じた。勝負は、ここからだった。
土から生まれる器
小説ID: cmnlfe2xi000d01mwcepfbna8
7 / 10
