地区大会の予選課題が発表された朝、工房は妙に静かだった。机の上に置かれた紙を見た瞬間、主人公は息を呑む。条件は三つ。使える土は決められた量だけ。装飾は最小限。焼成時間も短い。派手さで押すことも、手数でごまかすことも許されない。完成度だけで勝負しろ、そう言われているようだった。 周囲から小さな舌打ちが漏れる。ライバルの一人は、これでは個性が死ぬと笑ったが、その声はどこか張りつめていた。主人公も最初は同じことを思う。自分が積み上げてきた模様も、釉薬の流れも、少しの時間で映える工夫も、すべて削られてしまう気がした。だが、先生は紙を置いたまま、静かに言った。制約があるから、手つきが出る。自由は、何もない場所にだけあるわけじゃない。 主人公は作業台の前に座り、乾いた土を指で撫でた。量が少ないなら、厚みで誤魔化せない。装飾が少ないなら、形の一呼吸ごとに意味を持たせるしかない。今まで作ってきた器の失敗が、頭の中でつながっていく。縁を欲張って歪ませたことも、底が重すぎて沈んだことも、全部がこの一枚の地図になる。勝ちたいという焦りはある。それでも、勝つために誰かの真似をするのでは、この予選の意味がない。 隣では、ライバルが迷いなく土を切っていた。先輩は何も言わず、ただ深く頷く。その姿に、主人公は不思議と背中を押された。大会は、うまく見せた者の勝ちではない。限られた条件の中で、何を捨て、何を残すかを見せる場なのだ。そう思った途端、頭の中のざわめきが少しずつ形を持ち始める。 主人公は決めた。薄く、軽く、けれど頼りないだけにはしない。手に取った瞬間に、静かに意志が伝わる器を作る。制約が厳しいほど、隠していたものは隠せない。ならばむしろ、逆境そのものを味方にするしかない。土を水で整え、ろくろに据える。回転が始まる音を聞きながら、主人公は予選こそ本当の勝負だと知った。
土から生まれる器
小説ID: cmnlfe2xi000d01mwcepfbna8
5 / 10
