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土から生まれる器

小説ID: cmnlfe2xi000d01mwcepfbna8

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町の外れにある工房は、夕方になると白い煙のような土の匂いに包まれた。主人公が陶芸部の引き戸を開けると、静けさの奥でろくろの低い唸りだけが生き物みたいに回っていた。机の上には、まだ乾ききっていない器が並び、光を受けた釉薬の膜が水面のように揺れて見える。 ここが、ただ手を動かして落ち着くための場所ではないと気づいたのは、挨拶をした直後だった。顧問の先生は簡単な説明だけで言葉を切り、あとは各自の作品を見ろと言った。壁際には、すでに完成度の高い皿や盃が並んでいる。どれも形が整っているだけではない。まっすぐな線で勝負する者、ゆがみを味に変える者、薄さと強さを同時に狙う者。作り手の性格が、そのまま指先から伝わってくるようだった。 「新入部員か」 最初に声をかけてきた先輩は、指先に土の色を残したまま、静かに笑った。けれど笑みの奥には、こちらを測るような鋭さがある。隣で腕を組んでいた同級生は、釉薬の配合表を見下ろしながら、まるで試験の点数でも見るみたいな目をしていた。 「器は、ただ作れればいいわけじゃない。見た瞬間に、誰の手か分かるものが強い」 その言葉に、主人公の胸がわずかに熱くなる。陶芸は静かなものだと思っていた。けれどこの工房では、音を立てずに火花が散っている。形、厚み、表情、焼き上がり。そのすべてが、目には見えない競い合いになっていた。 先生が土をひと塊、机に置いた。「まずは、自分だけの器を一つ作ってみろ」 主人公はその土に手を伸ばした。まだ冷たい。だが、掌の中で少しずつ呼吸を始める気がした。うまくいく保証はない。それでも、ここでなら何かを掴めるかもしれない。静かな工房の空気の中で、初めての挑戦はもう始まっていた。