真一が持ってきた旗は、給食の紙ナプキンを三つ折りにしただけの、あまりに軽い旗だった。けれど、それを見た瞬間、ぼくの胸は変に高鳴った。もう失敗ばかりの準備なんてやめてもいい。そう思っていたはずなのに、真一が校庭のすみに棒を立て始めると、ぼくの足も自然に動いた。 何をするのかと聞く前に、真一はここを観測基地にしようと言った。世界の果てを探すのはやめるのかとぼくが言うと、いや、探す前に比べるんだと返された。比べる。ぼくはその言葉に少し引っかかった。世界は一つしかないのに、どう比べるのだろう。だが真一は、影の長さ、風の向き、雲の動き、全部違う日に比べればいいと、まるで当然みたいに言う。 そのとき、光太が熊のぬいぐるみを高く掲げた。基地の見張りだと言う。ぼくは思わず笑ってしまった。すると笑った拍子に、肩の力が抜けた。今までぼくは、ひとつの答えを見つけようとして、世界を小さく押し込めすぎていたのかもしれない。知りたいことは、答えより先に並んでいる。比べて、見て、聞いて、初めて形になる。 放課後、ぼくたちは川べりへ行った。母さんも父さんも、今日は止めなかった。代わりに、メモ帳と定規と、冷めた麦茶を持たせてくれた。川の流れは昨日と同じに見えて、石の上の泡の並びは少し違う。真一が測った影の長さは、朝より短く、夕方のものは長く伸びていた。光太は石を積んでは崩し、そのたびに、流れの速さを自分の目でたしかめているみたいだった。 ぼくはページのすみに、今日分かったことを書いた。川は止まって見えても動いている。影は勝手に伸び縮みするのではなく、太陽に合わせて姿を変える。知らないことは、遠くの海だけにあるのじゃない。足元の水にも、風の抜ける音にも、ちゃんと隠れていた。 家に帰るころ、ぼくの世界の果て発見計画は、少し別の名前になっていた。果てを探す計画ではなく、確かめる計画だ。まだ地球が回っていることも、空がどこまで続くのかも、全部を心から分かったわけじゃない。それでも、分からないまま夢中になれるのは面白かった。答えを急ぐほど、見落とすものが増える。けれど、ゆっくり見ると、失敗したはずの道のあちこちに、小さな発見が落ちている。 夜、窓辺に立つと、真一の紙の旗がランドセルから少しはみ出していた。ぼくはそれを見て、世界の果ては見つからなくてもいいのかもしれないと思った。知らないことを知る楽しさがあるなら、冒険はまだ終わらない。むしろ、ここからが本番だ。ぼくは赤い鉛筆で新しい題を書いた。世界のしくみをたしかめる。その下に、最初の一行を足した。まずは明日の朝日を見る。
果てを探す子ども
小説ID: cmnl8pero000q01o24at2iry9
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