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果てを探す子ども

小説ID: cmnl8pero000q01o24at2iry9

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翌朝、ぼくは方位磁石を握りしめて玄関に立った。今日は本当に出かける。そう決めたのに、母さんはお弁当を包みながら、どこまで行くつもりなのと落ち着いた声で聞いた。世界の果てだと答えると、母さんの手が少し止まった。 その顔が気になって振り返るより早く、父さんもやってきた。地図帳を小脇に抱え、心配そうに眉を寄せている。真一も遅れて飛び込んできて、ぼくの背中に追いつくなり、昨日の紙ナプキン旗を振り上げた。光太まで熊のぬいぐるみを抱えてついてくる。ぼくは急に、台所と廊下と玄関が全部狭くなったみたいに感じた。 ぼくは世界の果てを探すだけだ、と言った。けれど、自分でも声が震えているのがわかった。母さんはそれで足りるの、と聞き、父さんは足りないのは道具じゃないかもしれないと言った。真一は、まずどこへ行くか決めようぜと笑い、光太は熊を差し出して、ぼくより先にうなずいた。みんながいろいろ言うのに、ぼくは答えられなかった。 ほんとうは、ぼくはただ、最初に思ったことを証明したかっただけだ。地球が回っているのか、果てがあるのか、みんなの言うことが本当なのか。それをうまく言葉にできないまま、ぼくは靴ひもを結び直した。すると母さんが、まずは学校の裏の川を見に行くなら手伝うよと言った。拍子抜けして顔を上げると、父さんも、地図の読み方はそこからでも覚えられると続けた。 ぼくはむっとした。そんな近くで何がわかるんだと思った。けれど、真一がぼくの肩を軽くたたいて、聞いてから決めても遅くないぞと言ったとき、少しだけ胸の奥が静かになった。相手の話を最後まで聞く。そんな簡単なことを、ぼくはいつも飛ばしていたのかもしれない。 結局、出発は遅れた。家を飛び出すはずが、全員で歩くことになった。裏道の途中、母さんは川が昔もっと曲がっていたことを話し、父さんは堤防の高さを見ながら、地形は少しずつ変わるんだと教えてくれた。真一は、なら地図も更新がいるなと得意げに言い、光太は石の上の蟻を夢中で見ていた。 ぼくは何も反論できなかった。代わりに、耳を澄ませた。流れる水の音、風で揺れる草の音、母さんの説明の中にある昔の川の形。知らないことは遠くにあると思っていたのに、話を聞けば、すぐ足元にも転がっていた。ぼくはようやく、世界の果てを探す前に、相手の言葉をちゃんと受け取る必要があるのだと知った。 川べりに着いたころには、出発の勢いはすっかり消えていた。それでもぼくは、地図の端に今日見たものを赤い鉛筆で書き足した。行かなかったはずの場所が、少しだけ近づいた気がした。