chapalette Logo

果てを探す子ども

小説ID: cmnl8pero000q01o24at2iry9

8 / 10

翌日の夜、ぼくはこっそり部屋の窓を開けた。世界の果てへ行く前に、まず空を確かめる。そう決めて、父さんから借りた地球儀を机に置いた。丸い地球は、手のひらの中でやけに静かだった。ぼくは赤い鉛筆で、学校、川、神社の坂、そしてまだ見ぬ海までを指でなぞった。線を引くたび、地球儀の表面がただの球ではなく、歩いた道の続きに思えてきた。 庭に出ると、真一からもらった小さな懐中電灯を足元に向けた。光の輪は土の上で丸く広がり、その端はすぐに暗闇へ溶ける。ぼくはそこで立ち止まり、光の外に本当に何もないのか考えた。何もないのではなく、見えていないだけかもしれない。そう思った瞬間、胸の中のもやもやが少し形を変えた。 そこへ母さんが毛布を持って出てきた。寒いでしょう、と言って肩にかけてくれる。ぼくは照れくさくて、星を調べるんだとだけ答えた。母さんは空を見上げ、北極星を探すならあのあたりねと教えてくれた。言われた方を見ると、黒い空に小さな光がじっと浮かんでいる。ぼくはその星を地図の北みたいだと思った。地球儀の上の線は見えないのに、星はちゃんと方角を示している。 父さんも起きてきて、庭先にしゃがみこんだ。ぼくが地球儀を回すと、父さんは静かに、地球は回っているけれど、ぼくたちには止まって見えることがあると言った。ぼくは首をかしげたまま、地面に置いた小石を見た。手で押しても少ししか動かない。けれど、地球儀をゆっくり回してみると、昼の場所と夜の場所が順番に現れる。空の星と、机の上の丸い球が、急につながった。 それでもまだ、本当にそうなのか知りたかった。次の日、ぼくは学校で影の長さを測った。朝と昼と夕方で、同じ棒の影が少しずつ形を変える。真一はそれを見て、時間で影が逃げるみたいだと言った。ぼくはうなずきながら、逃げているのではなく、太陽の位置が変わっているのだと自分で書いた。書いた文字を見返すと、昨日までの大げさな計画より、ずっと確かそうに見えた。 放課後、ぼくは図書館でもう一度星の本を開いた。ページの隅に、月の満ち欠けの絵があった。夜ごと少しずつ形が変わる月は、消えているのではなく、見える部分が変わっているだけだという。ぼくはその説明を読みながら、世界の見え方も同じかもしれないと思った。端を探していたつもりが、角度を変えれば、同じ場所に別の顔がある。 帰り道、ぼくは川に映る夕焼けを見た。水面の赤はすぐ揺れて、空と同じなのか違うのか分からなくなる。けれど、分からないからこそ、見続けたくなる。世界の果てはまだ見つからない。けれど、地球儀を回し、影を測り、星を見上げるたび、ぼくの中の世界は少しずつ丸くなっていった。