chapalette Logo

果てを探す子ども

小説ID: cmnl8pero000q01o24at2iry9

2 / 10

翌日の放課後、ぼくは机いっぱいに新聞紙を広げた。世界の地図は、まず世界を知るための土台だ。そう思って、定規と赤い鉛筆で四角い海を描き、真ん中に大きな陸を置いた。すると、どう見てもお菓子の箱の包み紙みたいになった。山は三角、川はくねくね、港は端っこに三つ並んだ。けれど、ぼくにはそれが立派な航海図に見えた。端のほうには、自分だけがたどり着ける白い余白も残した。 真一を呼ぶと、彼は地図を見て首をかしげた。北はどっちだと聞くから、こっちだと胸を張って答えた。すると真一は、じゃあその赤い線は何だと言った。ぼくは、たぶん道だと答えた。正確には、果てへ向かう特別な道だ。すると真一は笑って、そんな道は通学路にないぞと肩をすくめた。ぼくは少しむっとしたが、地図の上でなら道はいくらでも増やせる。 夕方、母さんにも見せた。これは世界の地図だと説明すると、母さんはエプロンのまま覗き込み、ずいぶん楽しそうだねと言った。でも、縮尺はどうしたのと続ける。しゅくしゃく、という言葉は知っていたが、ちゃんと考えたことはなかった。実際の山を一センチにするには、どれくらい縮めればいいのか。ぼくが黙ると、母さんは台所の砂糖を指して、同じ大きさに見えても中身は違うでしょう、と言った。ますますわからなくなった。世界は見た目よりややこしいらしい。 その夜、父さんにも見せた。父さんは地図を持ち上げて、逆さにして眺めたあと、これは地図というより宝探しの設計図だなと笑った。ぼくはむっとしながらも、宝の地図なら悪くないと思った。まだ見ぬ世界の端を示す印みたいで、むしろ本物らしい気がしたからだ。父さんは、地図は正しく描くほど役に立つけれど、最初は迷いながらでいいとも言った。そう言って、方角を確かめるための小さなコンパスをくれた。 ぼくは机に戻り、地図の隅に赤い印を足した。ここが出発点で、ここがたぶん海で、ここがまだ知らない場所だ。線は曲がり、島は飛び散り、名前のない空白もある。それでも、ぼくの地図はぼくにしか描けない。胸の奥が熱くなって、ぼくはランドセルの横に、新しい準備のメモを挟み込んだ。方位磁石。食べ物。記録帳。それから、まだ足りない何か。旅はもう、地図の上で始まっていた。