翌朝、ぼくは世界の果てが見えるかもしれないと聞いた高台へ向かった。町はずれの神社の裏にある坂道で、石段は長く、息を切らしながら上るたびに、ランドセルの中で図鑑が少しずつ重くなった。真一も光太も来ると言っていたのに、二人は途中で別の遊びにひかれてしまい、結局、ぼく一人だった。 頂上に着くと、そこには思ったより何もなかった。大きな見張り台があるわけでも、空の切れ目があるわけでもない。ただ、風が強くて、遠くの屋根がいくつも重なって見えた。煙突の向こうに川が曲がり、さらに向こうに畑が広がっていた。家の屋根は小さな箱みたいで、学校の校庭さえ、手のひらの上の模様みたいに見えた。 ぼくはがっかりした。ここまで来たのに、世界の端らしい端はどこにもない。望遠鏡の代わりに持ってきた虫眼鏡で空をのぞいても、青はただ青のままだった。しゃもじも熊のぬいぐるみも役に立たない。思わず地図を開くと、昨日まで大きく見えた町が、急にすみっこの一部に変わった。 そのとき、山の上の見晴らし台を掃除していた年配の人が、よければこっちに来なさいと声をかけた。ぼくが図鑑を抱えているのを見ると、その人は笑って、昔はここから海が少しだけ見えたんだよと言った。今は建物が増えて見えにくいけれど、空のほうは変わらないね、と続ける。ぼくは思わず空を見上げた。さっきまでただ広いだけだった景色が、急にいくつもの層になって重なって見えた。 世界の果てはなかった。けれど、見慣れた町は、ここから見ると知らない場所みたいに広かった。学校も家も、毎日歩く道も、全部がひとつの大きな地図の中におさまっている。ぼくはそのことに少しだけ胸を打たれた。果てを探していたはずなのに、見つかったのは、いつもの景色の奥行きだった。 帰り道、坂を下りながら、ぼくはもう一度ノートを開いた。そこに赤い鉛筆で、見えたものを次々書きつける。屋根の数、川の曲がり方、遠くの電車の音。全部を知る必要はないのかもしれない。けれど、知らないまま通りすぎるには惜しいものが、この町にもまだたくさんある。ぼくはそう思って、次はもっと近くを調べようと決めた。
果てを探す子ども
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