放送が途切れたあと、旧校舎には妙に澄んだ静けさが落ちた。美緒は封筒の束を見つめたまま、まだ胸の鼓動が早いのを感じていた。白石も上級生も、もう逃げる顔ではない。ただ、長く握りしめていたものをやっと置けた人間の顔をしている。 蓮は封筒の中身を素早く整理し、校内図と記録の時刻を並べた。そこで彼の指が止まる。七不思議の噂が広がった順番は、偶然ではなかった。最初に出たのは音楽室、次が旧図書室、三階の踊り場と続く。だが実際は、すべてが同じ日に起きた混乱を起点に、見られた場所から順に言い換えられていただけだった。 「人を遠ざけるために、噂を分けたんだ」 蓮の声に、白石が小さくうなずく。文化祭の準備で使う寄付の記録がずれ、旧校舎の一部に立ち入れなくなったあの日、誰かが焦って対応した。説明の代わりに怪談を流し、人の目を散らした。だがそのせいで、話は別の怖さを呼び込み、噂そのものが校舎の影みたいに居座ってしまった。 美緒は、これまで聞いた証言を思い返した。誰もが少しずつ違う話をしていたのは、嘘をついたからではない。みんな、同じ出来事を避けていたのだ。直接触れれば、責める相手がいる。けれど噂にしてしまえば、責任はぼやける。その曖昧さが、学校じゅうに広がる床のひびのように、静かに見えない溝を作っていた。 そのとき、廊下の向こうで足音が止まった。美緒が顔を上げるより早く、校門近くでよく見かけた事務員の男性が姿を見せる。彼は封筒の束を見て、深く息を吐いた。 「ここまで来たなら、もう隠せませんね」 彼は、寄付記録の管理を任されていた一人だった。誰よりも早く違和感に気づきながら、騒ぎになるのを恐れて沈黙していたのだという。けれど沈黙は、守るための布ではなかった。かえって、埃を積もらせるだけだった。 蓮は彼の言葉を聞き終えると、ノートの最後のページを開いた。そこには、白石たちが残した訂正の跡と、事務員が後から書き足した短い謝辞が並んでいた。噂を利用して人を遠ざけた理由、閉じた教室の本当の用途、消えたように見えた記録の行方。ばらばらだった線が、ひとつの出来事を中心に静かに結び直される。 「七不思議は、ひとつずつ独立していたんじゃない」美緒が呟く。「全部、あの日の続きだったんだ」 蓮は窓の外へ目をやった。校庭の灯りは消え、夜の匂いが薄く入ってくる。だがもう、そこに怯える必要はない。 「最初から、学校は怪異を抱えていたんじゃなくて、説明し損ねたんだ」 その言葉に、白石がかすかに笑った。美緒もつられて息を漏らす。怖い話の正体は、突き詰めれば人の慌ただしさと、言えなかった一言の積み重ねだったのだ。 翌朝、掲示板には新しいお知らせが貼られた。七不思議の簡単な説明と、旧校舎の利用停止理由、そして関係者の名前が順に記されている。美緒はそれを見上げ、昨日までのざわめきが、少しずつ校内の空気に溶けていくのを感じた。けれど最後の一行だけは、誰にも予想できない形で終わっていた。 そこには、七つ目の不思議として、放送室の時計が一分だけ早く進む理由が記されていた。
校内七不思議調査
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