翌日の掲示板は、昨日までと同じ場所にあるのに、どこか息をひそめているようだった。色あせた行事予定表の端がめくれ、貼り足されたプリントが一枚だけ妙に新しい。美緒は足を止め、そこに書かれた時間割の変更を見つめた。三年の特別補習、二年の図書整理、旧校舎の鍵の返却。ばらばらに見える予定が、ひとつの時間に集められている。蓮はその横で、落とし物箱の中を確かめていた。そこには名札の外れた上履きや壊れた定規と並んで、古い職員用のカードが一枚混じっていた。 「この日だ」 蓮の指が止まる。先週、特別清掃が入った午後、旧資料室の前でやけに人の出入りが多かった日だ。美緒は思い出す。昼休み、何気なく見た廊下で、普段は別々の場所にいる生徒たちが同じ方向へ急いでいたことを。誰かが掲示を張り替え、誰かが記録を運び、誰かが時間をずらしていた。学校の中で起きた出来事は、怪談の顔をして広がる前から、すでに誰かの手で整えられていたのだ。 二人が校内誌の保管棚を確かめると、特定の号だけが抜かれていた。そこに載るはずだったのは、数年前の文化祭に関する小さな記事だったが、代わりに白紙の綴じ込みが挟まっている。美緒はその空白を見て、胸の奥が冷えるのを感じた。噂の核は、怖い話ではなく、ひとつの出来事を見えなくするための空白だったのかもしれない。 だが、真相に近づくほど、周囲の空気は少しずつ硬くなった。聞き込みに応じてくれていた生徒は、急に目を伏せるようになり、職員室の前で会った上級生は話しかける前に去っていく。図書室の司書も、以前のような曖昧な笑みを浮かべるだけで、古い記録には触れたがらない。美緒が白石の名を出した瞬間、相手の表情が変わるのを、蓮は見逃さなかった。 「もう、聞くなってことか」 返事はなかった。ただ、廊下の奥で窓が小さく鳴った。二人の背後には、いつの間にか人の気配が薄れている。協力してくれたはずの輪が、ひとつ、またひとつと離れていく。美緒は不安を押し殺しながら、落とし物箱のカードを握りしめた。蓮は静かに視線を上げ、次に確かめるべき場所を見定める。誰かが避けようとするほど、そこにはまだ隠れている何かがある。二人は、その沈黙ごと追いかけることにした。
校内七不思議調査
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