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校内七不思議調査

小説ID: cmnl8ocpm000d01o2m564iovg

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柏木蓮は、紙片を手にしたまましばらく黙っていた。窓の外では夕暮れが色を失い、図書室の本棚だけが深い影を溜め込んでいる。美緒が息を潜めるように見守ると、蓮はその紙の端を指でなぞり、記された部屋番号と日付を目で追った。 「これ、最近書かれたものだ」 声は低かったが、確信だけは揺らがない。美緒は思わず顔を上げた。紙は黄ばんでいるのに、インクの滲み方が新しい。長い時間を隠れて過ごした跡ではなく、誰かが古い紙にわざと残した印のようだった。 蓮はそのまま、聞き込みの記録を机に並べた。誰がいつどこで噂を聞いたか、どの言い回しを真似したか、どこで話が広がったか。並べてみると、ある一点だけが妙に集中している。旧校舎の噂が増えたのではなく、ひとつの話題だけが先に広まり、そこから他の七不思議へ火が移った形だった。 「広がり方が不自然だ。最初の一人がいる」 美緒はすぐに、生徒たちの顔を思い返した。昼休みの教室、音楽室の前、図書室の返却口。怖がるふりをしていた者、やけに詳しかった者、そのどれもが同じ話を少しずつ違えていた。そして記憶の端に引っかかったのは、どの場面にも必ず近くにいた一人の女子生徒だった。背の高い、控えめな笑い方をする三年の白石。 「私、あの子に聞いてみる」 そう言うと、美緒は立ち上がった。蓮は止めなかった。ただ、まるで答え合わせを待つみたいに静かに頷く。二人は資料室を出て、人気の少ない廊下を並んで歩いた。窓から差す薄い光の中、壁に貼られた行事予定表がわずかに揺れている。白石はいつもなら放課後に図書室へ寄るはずだった。 その姿を探しに向かう途中、美緒はふと気づく。噂を最初に広めた人を追っているのに、なぜか自分たちもまた、誰かに導かれている気がするのだ。蓮も同じことを思ったのか、足を止めて振り返った。廊下の先、閉められたはずの旧資料室の扉が、かすかに開いている。 誰かが先回りしている。二人の間に、言葉にならない緊張が走った。美緒は唇を引き結び、蓮は一歩だけ前に出る。噂の発信源を追うはずの調査は、いつの間にか別の手に握られていた。