柏木蓮は、生徒会室の古い鍵束を指先で弄びながら、まず図書室に向かった。夕方の図書室は窓の光が薄く、棚の影が長く床へ伸びている。司書の机の奥には、誰も手を触れていないのに黄ばんだ帳面が数冊並んでいた。蓮は貸出記録よりも古い校内誌や記念誌を手早くめくり、旧校舎の改修前後で七不思議の記述が増えたり減ったりしていることを見つける。最初はただの肝試しだった話が、何年かごとに少しずつ形を変え、ある時期から妙に具体的な場所の名を含むようになっていた。 次に二人は旧校舎の資料室を訪れた。使われなくなった廊下には、白く乾いた埃が積もり、足音だけがやけに大きく響く。美緒が掲示板のコピーを広げると、蓮は記録に残る古い噂と照らし合わせた。三階の踊り場、音楽室、旧図書室。場所は同じでも、語る生徒によって細部が違う。誰かは人影を見たと言い、誰かは声を聞いたと言い、別の誰かは消えたノートを話に混ぜる。ばらばらに見える証言が、ひとつの出来事を中心にずれているようだった。 翌日、二人は聞き込み先を変えた。怖がりながら面白そうに話す生徒、昔からの噂だと断言する生徒、誰かに聞かれたから覚えているだけだと言い張る生徒。そこで美緒は、皆が最初から知っていたのではなく、最近になって耳にした内容を自分の記憶に合わせて語っていることに気づく。蓮はその違いを逃さず、言葉の端々に残る共通点を拾い上げた。閉鎖された場所、消えた備品、誰かが見張っていたような気配。七不思議は単なる怪談ではなく、校内のどこかで起きた小さな出来事を隠すために、何度も語り直された跡だった。 放課後、二人が再び図書室に戻ると、背表紙の抜けた棚の奥から一枚の古い紙片が見つかった。そこには、今の校則にはない部屋番号と、短い走り書きが残されていた。美緒はそれを見て、胸の奥で何かが静かに繋がるのを感じる。蓮は紙片を指で押さえ、誰かが意図して噂を育ててきたのだと低く呟いた。窓の外では、下校のチャイムが遠く鳴っていた。七不思議は、もうただの話では終わらない。二人の視線は、次に開かれるはずの古い扉へ、自然と向いていた。
校内七不思議調査
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