放課後の旧校舎は、冬の底みたいに冷えていた。蓮が職員用カードで閉鎖された教室の鍵を開けると、埃の匂いと一緒に、長くしまい込まれた時間がふわりと漏れ出した。美緒は思わず息を止める。机は半分ほど片付けられていたが、窓際の棚だけが取り残されている。その奥に、厚みのある古いノートが一冊、背表紙を見せて挟まっていた。 表紙には何もない。けれどページを開いた蓮の目が、すぐに細くなった。そこには七不思議の噂の一つひとつが、年ごとの出来事と結びつくように記されていたのだ。誰がどこで何を見たかではなく、誰に何を渡すか、どの時間にここへ来るか。怪談の形を借りた連絡帳のようだった。美緒はページの端に残る同じ筆跡を追いながら、胸の奥がひやりとするのを感じる。 「これ、隠すためじゃなくて、伝えるためだ」 蓮の声は静かだった。七不思議は、学校の過去にあった出来事を包むための煙ではない。むしろ、その煙の中に、見つかってはいけない伝言を紛れ込ませていたのだ。ノートの最後には、数年前の文化祭の日付と、たった一行だけ薄く書かれていた。閉じた扉の向こうへ、分かる者だけが来い。美緒はその文を見た瞬間、ある記憶を思い出す。噂に怯えていた生徒たちの中に、白石と同じ口の動かし方をする者がいたことを。 「白石さんは、広めたんじゃない。守ろうとしてたのかもしれない」 その言葉に、蓮はすぐには答えなかった。代わりに、ノートの余白へ走り書きされた部屋番号を指でなぞる。旧資料室ではなく、今は使われていない放送準備室だった。二人が見落としていた場所だ。そこへ向かおうとした、そのときだった。廊下の向こうから、足音がひとつ、ゆっくり近づいてくる。 扉の隙間に差し込んだ夕光が揺れ、黒板に映る影が二つ増えた。美緒はノートを胸に抱え、蓮は迷いなく一歩前へ出る。追われていると思っていたのは、どうやらこちらだけではなかった。足音の主が名乗るより先に、封じられた伝言の行き先が、静かに姿を現そうとしていた。
校内七不思議調査
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