蓮は足音の間合いを数え、扉の外に立つ相手が一人ではないとすぐに見抜いた。美緒はノートを抱えたまま息を潜める。次の瞬間、扉が開き、現れたのは白石だった。その背後には生徒会の上級生がいて、白石の肩を押さえるように立っている。 「それを、まだ見ていなかったのね」 白石の声は震えていた。だが怯えではなく、ようやく逃げ場がなくなった人の声だった。蓮は一歩も引かず、彼女の視線だけを受け止める。 「七不思議は、噂じゃない。時間をずらす目印だった。文化祭の準備で使う備品が、何度もなくなったでしょう。誰が持ち出したか分からないままにすると、全部あの件に繋がる。だから話をばらして、誰も一つの出来事を見ないようにした」 美緒は息を呑んだ。思い返せば、聞き込みで出会った証言は、いつも同じ時間帯を避けていた。昼休みの終わり、旧校舎の解錠直後、放課後の片付け前。そのたびに誰かが別の場所にいたと言い、記憶が少しずつずれていた。 蓮はノートを開き、記録を照らし合わせる。特定の日だけ、旧校舎、放送準備室、倉庫、図書室の出入りが重なっている。白石が噂を広めたのは、秘密を隠すためではない。決まった時間に人を散らし、ひとつの部屋へ近づかせないためだった。その部屋には、数年前に取り違えられた文化祭の資料と、手違いで封じられた寄付の記録がしまわれていた。知られれば困る者がいたのだと、美緒はやっと理解する。 「でも、だからって七不思議にする必要はなかった」 白石は唇を噛んだ。あの話を面白がる生徒が増えれば増えるほど、誰も本当の場所を確かめなくなる。けれど同時に、誤解も大きくなった。閉ざされた教室に入った者がいる、夜に人影を見た者がいる、消えたノートがある。全部が少しずつ、本来の目的から逸れていったのだ。 蓮はそこで初めて、先ほどから引っかかっていた一点を口にした。 「おかしいと思っていた。証言の共通点は、場所じゃない。時間だ。毎回、同じ鐘の前後に集中している」 美緒ははっとする。自分が見聞きした違和感も、そこへ繋がっていた。誰かが急に話題を変えた昼休み、職員室前で聞こえた金属音、旧校舎に流れた不自然な静けさ。すべてが、ひとつの時間を空白にするための合図だった。 そのとき、上級生が小さく息を吐いた。彼は白石の代わりに持ち出しを担っていた一人で、記録を消した張本人でもあった。だが、見つかるのを恐れていたのは資料ではなく、もっと前の自分たちの失敗だった。寄付の記録のずれを放置したせいで、文化祭の資金が足りなくなり、責任を押しつけ合ううちに噂へと変わってしまったのだ。 美緒は、その説明を聞きながら、あのとき感じた小さな引っかかりを思い出していた。七不思議のメモに混じった、妙に新しい一枚。あれは怪異のしるしではなく、誰かが貼り足した訂正だったのだ。怖い話に見せかけた連絡は、ずっと人間の手で続いていた。 蓮は静かにノートを閉じた。 「これで、全部つながった」 だが、美緒が顔を上げたその瞬間、廊下の奥から別の足音が響いた。今度は一人ではない。閉ざしていたはずの旧校舎の窓に、夕焼けとは違う白い光が差し込む。誰かが校内放送のスイッチを入れたのだ。 耳を裂くほど澄んだチャイムが、まだ鳴るはずのない時間に校舎へ流れ出した。
校内七不思議調査
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