翌朝の掲示板は、昨日までの薄暗い噂を洗い流したみたいに明るかった。新しい説明文が丁寧に貼り出され、七不思議は怪談ではなく、校舎の改修と備品管理の混乱から生まれたものだと記されている。放送室の時計が一分だけ早いことも、旧校舎の閉鎖理由も、もう隠しごとの形ではない。美緒はその前に立ち、胸の奥で何かが静かにほどけていくのを感じた。 「終わったな」 蓮の声はいつも通り淡かったが、どこか柔らかい。美緒は首を振った。 「ううん。やっと始まったんだと思う」 掲示板の脇では、白石が深く頭を下げていた。事務員の男も、校務員も、説明文の最終確認に追われている。昨日まで互いに目をそらしていた顔ぶれが、今日は同じ紙を見ている。その光景だけで、美緒には十分だった。怖い話に見えていたものの正体は、誰かを守ろうとして曲がってしまった時間だったのだと、今なら分かる。 蓮は記録の写しを閉じ、ぽつりと呟いた。 「お前の聞き込みがなければ、噂の広がり方に気づけなかった。場所だけじゃなく、誰がどの順で話したかまで追えたのは大きい」 美緒は思わず目を瞬いた。自分が集めた小さな違和感が、こんなふうに役に立つとは思っていなかったからだ。胸の内に、遅れて温かいものが広がる。自分の足で聞いた言葉、自分の目で見た沈黙、そのひとつひとつが、確かに真相へ届いていた。 「私、ちゃんと見つけられたんだね」 「見つけた。しかも一人じゃない」 その答えに、美緒は少しだけ笑った。七不思議は消えたわけではない。だが今では、誰もが避けて通る怖い話ではなく、昔の校舎に残った小さな行き違いとして受け止められている。説明されれば、怪異はただの影になる。影は消えなくても、足を止めるほどではない。 放課後、二人は再び旧校舎の前に立った。閉ざされた扉には新しい封がされ、周囲には立ち入り禁止の札が掲げられている。それでも美緒の目には、もう昨日までの不気味さはなかった。むしろ、まだ語られていない何かが眠っている気がした。 「次は何を追う?」 美緒が尋ねると、蓮は少しだけ口元を上げた。 「たぶん、まだある。学校には、説明しきれていないことが多い」 その言葉に、美緒はわくわくする自分を止められなかった。信頼は、事件を解くたびに少しずつ形を持つ。二人は並んで歩き出す。夕暮れの廊下の先で、次の謎が静かに待っているような気がした。
校内七不思議調査
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学校の七不思議を調査している女子高生が事件に巻き込まれ、探偵の男子高生が依頼を受けて解決するミステリーサスペンス。
