放課後の校舎は、昼間のざわめきが嘘みたいに静かだった。夕焼けの色が廊下の床を細く染めて、窓の向こうで部活帰りの声が遠ざかっていく。そんな中、桜井美緒は一人、古い掲示板の前で足を止めていた。そこには、誰が書いたのか分からない七不思議の噂が、小さなメモにして何枚も貼られている。三階の踊り場に立つ人影、夜の音楽室に響く鍵盤、消えたはずの旧図書室の灯り。どれも昔からある話だが、今日の美緒には妙に引っかかった。 昨日まで何となく聞き流していたはずなのに、ひとつだけ他と違うものがあった。噂の出どころが、どれも同じ笑い話に見せかけて、言い回しが少しずつ違うのだ。まるで、誰かが意図して形を変えながら広めているみたいだった。美緒は胸の奥に小さな棘のような違和感を覚え、放課後の校内を歩き回って話を聞くことにした。 二年の教室では、誰もが面白半分に語るだけで、肝心なところになると目をそらした。図書室の司書は、古い記録なら職員室にあるかもしれないと曖昧に笑った。音楽室の前で会った生徒は、七不思議の話をするときだけ急に声を落とし、背後を確かめるように振り返った。その仕草があまりにも不自然で、美緒の背中に冷たいものが走る。 人気のない渡り廊下に出たとき、空気がふいに重くなった。誰もいないはずの階段の上から、足音とも風ともつかない乾いた響きが落ちてきたのだ。美緒は息を飲み、手にしたメモを握りしめた。そこに記された噂の一つだけが、他より新しく、まるで今朝書かれたばかりのように見えた。 自分だけで追うには、少し危ない。そう悟った美緒は、校門近くのベンチで噂になる男子の顔を思い出した。観察が鋭く、校内の不審事をよく解くという、二年の柏木蓮。放課後の空気に押されるようにして、美緒は彼のいる生徒会室へ向かう。扉の前で立ち止まった瞬間、背後の廊下から、またあの妙な気配が忍び寄ってきた。美緒は小さく息を整え、助けを求めるように扉を叩いた。
校内七不思議調査
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