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幼なじみの相談役

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本番データの送信が再開したあと、編集室にはしばらく誰も声を出せなかった。画面の隅で進捗を示す数字だけが、淡々と増えていく。遥はその表示を見つめたまま、ほどけかけた髪を耳にかけた。兄は腕を組み、何度か息を整えてから、ようやく俺のほうへ視線を向ける。 「……君がいなければ、あのまま別の番号で流れていた」 「たまたま気づけただけです」 「たまたまではないだろう」 言い切った声には、もう敵意がなかった。俺は答えず、ただ最後の確認を進める。不要なものを削り、必要なものだけを残す。慌ただしく見えた騒ぎの正体は、細かな入れ違いの積み重ねだった。誰かが曖昧なまま押し進めた手順、その隙間に遥が無理を詰め込んでいた。だが今は、流れが正しい場所に戻っている。 遥が小さく息を吐いた。 「もう、隠さなくていいんだよね」 その声は震えていたが、逃げる響きではなかった。兄はしばらく黙ったあと、深く頭を下げる。 「俺が急かしすぎた。守るつもりで、追い詰めていた」 遥は驚いたように目を見開き、それから少しだけ眉を下げた。 「兄さん……」 「今回は、君に頼る」 その言葉に、彼女の肩からようやく力が抜けた。長く続いた警戒心が、ひびの入った氷みたいに静かにほどけていく。俺はその横顔を見て、胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。 その日の夕方、関係者たちの間で、俺への扱いは少し変わった。地味な修正屋だと思っていた顔が、今は違う意味で見られている。目立たない場所で積んだ作業が、最後に全体を救ったのだと、ようやく伝わったらしい。誰かが通りすがりに、さっきは助かったと頭を下げた。そんなことを言われるのは、慣れていない。 帰り道、駅へ向かう並木の下で、遥は足を止めた。 「ねえ」 振り返ると、彼女は少しだけ笑っていた。強がりの薄い膜が剥がれたあとの、静かな顔だった。 「これからも、頼っていい?」 「俺でよければ」 「よくなくない。ずっと、そうしたかった」 言い終えると、彼女は恥ずかしそうに視線をそらした。夕暮れの風が髪を揺らし、沈黙がやさしく落ちる。兄は少し離れた場所で立ち止まり、ふたりを見ていたが、もう止めようとはしなかった。 俺たちは並んで歩き出す。大きな約束はない。ただ、困ったときに手を伸ばせる距離が、前より少し近い。それで十分だと思えた。 空は淡く染まり、街の灯りが一つずつ点っていく。目立たない編集のように、見えないところで支え合う日々は、きっとこれからも続くのだろう。遥が隣で小さく笑う。その音を聞きながら、俺は初めて、未来が怖くないと思った。

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主人公(男)は映像編集のフリーランス。無口だが観察力が高く、状況判断が早い。表では目立たないが、土壇場で強い。ヒロインは主人公の幼なじみ。気安くて口うるさいが、ずっと主人公を気にかけている。恋愛になると素直になれない。主人公は過去に助けられた借りを返すためヒロインを手伝う。しかし関わるほど、彼女が背負う問題の大きさを知る。問題が解決した陣でラスト。キーマンはヒロインの兄。過保護で主人公を信用していないが、根は家族思い。キーマンはストーリーを大きく転換させる。周囲に低く見られていた主人公が評価される展開。