周囲に知られ始めたことで、秘密結社は思いがけない難題にぶつかった。商店街の手伝いも、便利な試作品も、評判は悪くない。だが人の口に上るほど、彼らの輪郭はぼやけていく。親切な集団として見られたいのか、静かに世界を変える集まりとして隠れたいのか。篠原は会議のたびに、その二つの顔のあいだで言葉を失った。 仮拠点の写真館裏では、夕食代わりの菓子パンが四つ並び、雪山の仲間は湯気の立つ紙コップを両手で包んでいた。綾瀬が帳簿を閉じ、真島がため息をつく。 「もう、何を名乗るか決めないとだめだろ」 「外向けの顔だけ整えても、中身が置いてけぼりになる」 篠原は黒い手帳を机に置いた。ここまで積み上げた仕事は、たしかに役立っている。だがそれは、最初に夢見た大きな理念からすると、あまりにも近所めいていた。見せ方を選べば、もっと資金も協力者も集まる。けれど、飾った言葉で固めてしまえば、今の自分たちが嘘になる気がした。 その沈黙を破ったのは、雪山の仲間だった。彼は紙ナプキンを一枚取り、机の上に置いた。まず、輪郭だけの家を描く。次に、その中に小さな机、棚、道具箱を足す。そして最後に、家の外へ細い矢印を引いた。誰かの役に立つものは、内側で整えられたまま外へ向かう。その流れを、言葉ではなく線で示していた。 「外に見せるのは、立派な旗じゃなくて、やっていることそのものか」綾瀬がつぶやいた。 真島は口元をゆるめた。「派手な理想は中に置いておけばいい。外には、役立つ結果だけ持って出る」 篠原はようやく顔を上げた。「なら、見せ方を分けよう。外では、手伝い屋として胸を張る。中では、もっと遠い夢を育てる。矛盾じゃない。段階だ」 その夜は、珍しく全員が本音を出した。誰が何を怖がり、何を諦めきれずにいるのか。綾瀬は、頼られるのは嬉しいが、便利な道具扱いにはされたくないと打ち明けた。真島は、動き続けないと不安になるからこそ、実は静かな計画が苦手だと認めた。篠原は、自分が一番、立派な言葉に縛られていたと明かした。 雪山の仲間は何も言わなかった。ただ一人ずつの前に、短い札を置いた。そこには、無理をしない、隠しすぎない、急がない。たどたどしい字なのに、不思議と胸に残る。 篠原はその札を見て、ふっと笑った。秘密結社は、秘密を守るために閉じるのではない。守るべき理想を見失わないために、言葉を選ぶのだ。外向けの顔は、もう決まった。だが内輪で交わした本音こそが、次の一歩を支える本物だった。
雪山仲間と秘密結社
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