新しい仮拠点は、閉店した写真館の裏手にあった。看板は外され、薄い埃の匂いだけが残っている。表の通りからは見えにくく、奥の階段を上がれば六畳ほどの空間がある。だが、机を三つ置けばいっぱいで、照明は一つ、窓は開けるたびにきしんだ。 「悪くない」 篠原は強がりではなく言った。倉庫に比べれば狭い。けれど、狭いからこそ無駄が目立つ。真島は天井を見上げ、綾瀬は壁の寸法を測り、必要なものを頭の中で並べ替えていく。持ち込める道具は限られていたが、だからこそ配置はすぐ決まった。会議机の代わりに折りたたみ箱を並べ、棚は一段だけにし、記録は壁に張る。 雪山の仲間は、入り口の段差に膝をつき、指先で床を軽く叩いた。次に、古い鏡の裏へ回り、そこに手製の札を差し込む。裏返すと、札には矢印と短い線が描かれていた。篠原が首をかしげると、仲間は今度は窓際の空き箱を一つずつ動かし、通り道を作って見せた。 「会議の前に、動線を決めろってことか」 綾瀬が言うと、仲間は小さくうなずいた。会議を始めるたびに机を動かし、終わるたびに片づけるのは手間だと思っていたが、逆だった。動かさない場所を決めれば、片づける量は減る。動かすものを少なくすれば、準備は早い。狭さは不便ではなく、考え方を削る刃になった。 その夜、彼らは試しに新しい会議を開いた。席は固定せず、壁の札に従って立つ者、座る者をその都度変える。議題は一つだけ、次の一週間で何をやめるか、何を残すか。真島は勢いで増やした備品を半分に絞る案を出し、綾瀬は帳簿の記入を簡略化した。篠原は話し合いの前に必ず五分の準備時間を置くと決めた。 驚いたのは、誰も反対しなかったことだった。狭さのせいで、余計な言葉を重ねる余地がなかったのだ。必要なことだけが残り、残ったものだけが機能した。 翌朝、写真館の裏口に新しい札がかけられた。大きく整った文字で、ひとことでこう書いてある。 少なく持ち、長く続ける 篠原はそれを見て笑った。たぶんこれは、本来の計画よりずっと地味だ。だが地味だからこそ、毎日できる。彼らは狭い部屋に肩を寄せ合い、ここからなら何度でもやり直せると知った。
雪山仲間と秘密結社
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