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雪山仲間と秘密結社

小説ID: cmnl8nauc000001o2i5o5w2bh

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資金繰りの会議は、いつも最後に電卓の沈黙で終わった。今月の残りはわずかで、倉庫の電気代と簡易暖房の燃料を払えば、活動費はほとんど消える。篠原が黒い手帳を閉じると、綾瀬が古い工具箱のふたを開け、そこに並べた試作品を見せた。折りたたみ式の傘立て、紐が絡みにくい荷物留め、湯のみの下に敷く滑り止め。どれも派手さはないが、使えば少しだけ楽になる品ばかりだった。これを売ろう、と真島が言った。 商店街の空き区画を借り、彼らは手作りの便利グッズを並べた。値札は綾瀬が丁寧に書いたが、字がまっすぐすぎてかえって無機質で、通り過ぎる客は足を止めない。篠原は笑顔で声をかけたが、慣れない売り文句が空回りし、説明は長いのに要点が抜けた。真島は実演で魅力を伝えようとして、紐を結ぶ手つきが不器用すぎて、結局ひとつ結ぶのに何度もやり直す羽目になった。 そんな中で、雪山の仲間だけは黙って棚の前に立っていた。最初は客たちも遠巻きに眺めるだけだったが、彼が試作品を手に取るたび、指先で軽く押し、傾け、耳を寄せると、なぜか通りすがりの人たちが同じように覗き込み始めた。彼の感覚は独特だった。少しでも重いものはすぐ見抜き、滑りやすい素材には首を傾げ、握ったときにしっくり来る形だけを静かに選ぶ。その様子が面白いと、子どもが真似をし、大人が笑い、気づけば棚の前に小さな列ができていた。 「それ、意外といいじゃないか」 初めて聞く言葉に、篠原は息を呑んだ。売れているのは品物そのものというより、仲間が無言で示す納得の仕草だった。綾瀬が急いで補充を運び、真島が包み紙を整え、篠原は急ごしらえの説明書を書き直した。売上は大きくない。それでも封筒に入った紙幣は、これまでのどの謝礼よりも重く感じられた。 閉店後、雪山の仲間はひとつだけ残った試作品を手に取り、しばらく眺めてから倉庫の天井を見上げた。そして棚の陰に、見慣れない小さな札を置いた。そこには、ただ短く、丸い文字で、もっと作れと書かれていた。篠原はそれを見て笑った。初めての成功は、どうやら売れたことより、次を求められたことらしい。