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雪山仲間と秘密結社

小説ID: cmnl8nauc000001o2i5o5w2bh

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倉庫の夜は、いつもより静かだった。売上の封筒が机の中央に置かれ、篠原はそれを指で軽く叩いた。たしかに前進している。だが、その先に進む方法については、まだ誰も同じ景色を見ていなかった。 「派手に打って出るべきだ」真島が先に言った。「商店街で少し名が通った今なら、もっと目を引くことができる。小細工を重ねるより、今こそ一気に広げる時だ」 綾瀬は手帳を閉じずに答えた。「広げる前に整えるべきところが多すぎる。棚の補強も、在庫の管理も、宣伝の言い回しもまだ甘い。勢いだけではまた崩れる」 言葉が重なり、倉庫の空気が少し尖った。大きな夢を掲げて集まったはずなのに、現実の歩幅をめぐって足が止まる。篠原もすぐには口を挟めなかった。どちらの言い分も正しく聞こえ、どちらも怖かった。 そのとき、雪山の仲間が立ち上がった。何も言わず、壁際の棚へ歩いていく。彼はぐらついていた脚をそっと押し、床に触れて傾きを確かめ、倉庫に落ちていた端材を拾って短い支えを作った。次に、ずれていた箱を重ね直し、風で開きかけていた窓の留め具をきつく締めた。たったそれだけで、さっきまで不安定に見えた棚は、見違えるほど落ち着いて見えた。 真島が黙った。綾瀬も、手帳のページをめくる手を止めた。 雪山の仲間は、今度は机の上の試作品に視線を移し、ひとつずつ並べ替えた。売れた形だけを真似るのではなく、持ちやすさ、置きやすさ、直しやすさを確かめるように。篠原はその動きを見て、胸の奥がゆっくり熱くなるのを感じた。派手な看板より、地味な調整のほうが、ずっと遠くまで届くことがある。 「全部を急がなくていい」篠原は言った。「けれど、止まるのは違う。積み重ねるために、積み重ね方を整えよう」 その夜から、倉庫では作業の前に必ず一度、置き場所を見直すことになった。誰が何を運ぶかではなく、どうすれば少ない手間で続けられるかを考える。雪山の仲間は相変わらず喋らない。だが翌朝、入口の扉にかけられた新しい札には、短くこう書かれていた。急がず、しかし止まらず。 真島はそれを見て、苦笑した。「結局、あいつがいちばん会長向きなんじゃないか」 篠原は答えず、ただ倉庫の奥へ目を向けた。そこには、まだ小さいが、確かな次の仕事が積まれていた。